【40代教員の退職カウントダウン229:退職まで残り2年4か月】
はじめに
シリーズ小説や漫画で学ぶ発達障害。第4回の今回紹介するのは、漫画『リエゾン―こどものこころ診療所―』です。
この漫画の舞台は、子どもの心の問題を扱う児童精神科のクリニック。
発達障害、不登校、虐待、ネグレクト、家庭の問題など、学校で働いていると決して他人事とは思えないテーマが次々と登場します。
ただ、この漫画の魅力は、発達障害のみならず子どもや保護者の様々な「困り感」が物語として丁寧に描かれているため、
「自分のクラスにも、似た子がいるな」
「あの保護者も、こんな気持ちだったのかもしれない」
と、自然と自分の教員経験に重ねて読むことができます。
発達障害や特別支援教育について学びたい先生に、ぜひ読んでほしい漫画です。
私は40代、小学校教員・教務主任(担任兼務)です。2028年3月に正規教員を退職すると決めています。
詳しくはこちらの記事で【私はなぜ教員を辞めるのか――教員不足で仕事が増え続ける学校】
『リエゾン』はどんな漫画?
物語の中心となるのは、小児科の研修医・遠野志保と、児童精神科医の佐山卓です。
遅刻や忘れ物が多く、研修先でもうまくいかなかった志保は、佐山のクリニックで働くことになります。
そこで佐山から、自分自身が発達障害であることを告げられます。
志保はADHD、そして佐山自身もASDの当事者です。
つまり『リエゾン』は、発達障害のない専門家が、発達障害のある子どもを外側から支援する物語ではなく、支援する側の二人自身も、発達の特性を持ちながら生活している物語なのです。

忘れてしまう。
人とうまく合わせられない。
こだわりがある。
自分の特性によって失敗することもある。
それでも、自分の苦手な部分を理解し、工夫しながら医師として子どもや保護者と向き合っていきます。この「支援する側も当事者」という設定が、『リエゾン』の大きな魅力だと思います。
「できない」を責めるのではなく、工夫する
『リエゾン』を読んでいて、教員として特に印象に残るのが、
「どうしてできないの?」ではなく、「どうすればできる?」と考える姿勢です。
学校にも、忘れ物が多い。板書が苦手。話を最後まで聞けない。友達とうまく関われない。
そんな子どもがいます。

私たち教師はつい、「もっとしっかりしなさい」「何度言ったら分かるの?」と言いたくなることもあります。
でも、本人は怠けているのではなく、本人自身が困っているのかもしれません。
本人の努力だけに任せるのではなく、周囲の環境や伝え方を変えることで「できる」を増やしていく。
これは、特別支援教育でとても大切な考え方です。
この漫画は、佐山や志保からそのヒントがもらえる物語です。

合理的配慮を具体的にイメージできる
私が教員として印象に残ったのが、第4巻に登場する希くんのエピソードです。
希くんは、知的な遅れはありませんが、文字を読んだり書いたりすることに大きな困難を抱えています。いわゆるディスレクシア(読字障害)です。
周囲から見ると、「読もうとしていない」「書く練習が足りない」と誤解されてしまうことがあります。
でも、本人は怠けているわけではありません。
そこで、タブレット端末などのICT機器を活用し、読み書きの負担を減らす工夫が示されます。

この話を読んで、同じ方法を全員に求めることが公平なのではなく、その子が学べる方法を用意することが大切なのだと改めて感じました。
学校でいう「合理的配慮」を、とても具体的にイメージできるエピソードです。
「この子にはどう世界が見えているのか」
教師はどうしても、教師側から子どもの行動を見てしまいます。
「授業中に動いている」
「話を聞いていない」
「みんなと同じようにできない」
でも、その子には教室の音がとても騒がしく感じているのかもしれません。
先生の指示が曖昧で、何をすればよいのか分かっていないのかもしれません。
予定変更に大きな不安を感じているのかもしれません。

『リエゾン』を読んでいると、「なぜこの子はできないのだろう」ではなく、「この子には、どんなふうに世界が見えているのだろう」と考えたくなります。
この視点を持つだけでも、読んだ次の日の子どもへの関わり方はかなり変わると思います。
保護者の苦しさにも寄り添っている
『リエゾン』の魅力は、子どもだけでなく、保護者の苦しさもしっかり描いているところです。
子どもに発達の特性があると、「自分の育て方が悪かったのではないか」「もっと厳しく育てればよかったのではないか」と、自分を責めてしまう保護者もいます。

また、保護者自身にも発達の特性があり、子育てそのものに難しさを感じているケースも描かれます。
私が印象に残ったのも、そんな保護者を扱ったエピソードでした。
できないことだけを見るのではなく、その人ができていることにも目を向ける。
そこには、学校で保護者と接するときにも大切なヒントがあります。
「家庭でもしっかりしてください」と求めるだけではなく、
「何に困っていますか。一緒に考えましょう」という関係をつくることも大切なのだと思います。
家族全体を見る視点も学べる
私が特に印象に残っているのが、第6巻の「カサンドラ」のエピソードです。
ASDの特性を持つ夫と娘との関係の中で、妻が少しずつ精神的に疲れていく様子が描かれます。

この話を読んで、発達障害の支援では、本人だけでなく家族全体を見る必要があると改めて感じました。
学校では、つい目の前の子どもへの支援に意識が向きます。
でも家庭では、その特性と毎日向き合っている保護者やきょうだいが、疲れていることもあります。
だからこそ、「家庭でも頑張ってください」と求めるだけでなく、「ご家庭で困っていることはありませんか」と聞く姿勢も大切だと思います。
必要であれば、学校だけで抱えず、医療や福祉などにつなぐ。
『リエゾン』は、子どもだけでなく、その周りにいる家族も支援の対象なのだと気付かせてくれる漫画です。

発達障害だけを扱った漫画ではない
『リエゾン』では、発達障害だけでなく、不登校、虐待、ネグレクト、知的障害、家庭環境、親子関係など、さまざまなテーマが扱われます。

講談社公式でも、この作品は「生きづらさを抱えた親と子に向き合う児童精神科医の物語」と紹介されています。2025年9月発売の21巻で完結し、累計発行部数は250万部を突破しています。
特別支援学級の先生や特別支援コーディネーターだけにおすすめする漫画ではありません。
通常学級の担任にも、「子どもの行動の背景には何があるのだろう」と考えるきっかけを与えてくれるはずです。
漫画だからこそ学びやすい
発達障害について学ぼうと思えば、専門書はたくさんあります。
もちろん、専門書から学ぶことは大切です。
でも、忙しい先生にとって、専門書を何冊も読むのは簡単ではありません。
『リエゾン』なら、漫画として楽しみながら、「自分のクラスだったらどうするだろう」「この保護者にはどう声をかけるだろう」と自然に考えることができます。

児童精神科医の三木崇弘先生も作品の監修に関わっており、三木先生自身も医療だけでなく、公立小学校のスクールカウンセラーや児童相談所など幅広い現場で活動されています。
物語として楽しみながら、学校現場にもつながる視点を得られる。
そこが、この漫画の大きな魅力です。
おわりに
『リエゾン』を読んで改めて感じるのは、子どもの「できない」だけを見ないことの大切さです。
その子は何に困っているのか。
なぜその行動をしているのか。
どんな工夫があればできるのか。
そして、保護者は何に悩んでいるのか。
「どうしてできないの?」から、「どうすればできる?」へ。
「困った子」から、「困っている子」へ。

発達障害について学びたい先生はもちろん、一度でも「この子にどう関わればいいのだろう」と悩んだことのある先生に、ぜひ読んでほしい漫画です。


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