【40代教員の退職カウントダウン209:退職まで残り2年6か月】
はじめに
「この大学の偏差値はいくつですか?」
大学選びになると、どうしても最初に気になるのが偏差値です。
私自身も、高校生の息子たちの進路を考える中で、大学名を調べるとまず偏差値を見てしまいます。
もちろん、偏差値は大切です。
しかし、大手予備校の大学入試に関する講義を聞いていて、改めて感じたことがあります。
大学は「入ること」が目的ではなく、入ってから4年間学ぶ場所だということ。
そう考えると、「自分の偏差値でどこに入れるか」だけで大学を選ぶのは、少し危険なのかもしれません。
シリーズ「進路指導ができる教員になろう」。
第4回は、「その大学に入ってから何をどう学ぶのか」という視点から、大学選びについて考えてみたいと思います。
私は40代、小学校教員・教務主任(担任兼務)です。2028年3月に正規教員を退職すると決めています。詳しくはこの記事をどうぞ→【私が退職しようと決意した具体的経緯】
シリーズ最初の記事はこちら【大学入試は私たちの頃とこんなに違う――教員が知っておきたい現在の大学受験】

偏差値が同じでも「同じ大学」ではない
例えば、偏差値がほぼ同じ2つの大学があったとします。
受験という視点だけで見れば、「どちらも同じくらいの難易度」と考えられます。
しかし、実際に入学してみると、一方は講義中心、もう一方は少人数のゼミ中心。
一方は実験が多い、もう一方は文献研究が多い。
一方は資格取得を重視、もう一方は研究を重視。
同じ「心理学部」「経済学部」「理学部」という名前でも、大学によって学ぶ内容や方法はかなり違うそうです。

つまり、偏差値は「入る難しさ」は教えてくれても、「入ってから何をするか」までは教えてくれないということです。
大学を調べるときに知っておきたい「3つのポリシー」
そこで講義の中で紹介されたのが、大学選ぶ時の「3つのポリシー」です。
文部科学省も、大学教育について、
- アドミッション・ポリシー
- カリキュラム・ポリシー
- ディプロマ・ポリシー
という3つの方針を一体的に考えることを求めています。

少し堅い言葉ですが、内容はそれほど難しくありませんので、それぞれ紹介していきます。
AP――どんな学生に来てほしいのか
APは、Admission Policy アドミッション・ポリシーです。
日本語では「入学者受入れの方針」といいます。
簡単に言えば、「この大学・学部は、こんな学生に来てほしい」というメッセージです。
例えば、
「主体的に学ぶ意欲がある人」
「数学や理科に強い関心を持つ人」
「地域社会の課題に関心がある人」
「他者と協働して学べる人」
など、大学によって求める学生像が書かれています。総合型選抜や学校推薦型選抜では、特に重要です。総合型選抜や学校推薦型選抜については以下の記事を参照して下さい。
【「推薦なら楽」はもう古い?―総合型・学校推薦型・一般選抜を教員が理解する】

面接で、「なぜこの大学なのですか?」と聞かれたとき、大学が求めている学生像と、自分が大学でやりたいことがつながっていなければ、説得力のある志望理由にはなりません。
だからAPは、入試のためだけでなく、自分と大学との相性を見る資料でもあるのだと思います。
CP――大学に入ったら、どう学ぶのか
私が今回の講義で特に重要だと感じたのが、CP――カリキュラム・ポリシーです。
正式には、「教育課程編成・実施の方針」。
簡単に言えば、「この大学では、どのように学生を育てていくのか」が書かれています。
例えば、
1年次には基礎科目を学ぶ。
2年次から専門科目を増やす。
3年次から研究室に入る。
フィールドワークを重視する。
実験・実習を多く取り入れる。
海外研修を行う。
などです。
講師の話では、大学に入ってから、「思っていた勉強と違った」と感じる学生もいるとのことでした。

例えば、「人と話しながら学びたい」と思って入学したのに、実際には文献を大量に読んでレポートを書く授業が中心だった。
反対に、「じっくり研究したい」と思っていたのに、グループワークや実習が非常に多かった。
こうしたミスマッチを防ぐためにも、大学名や学部名だけでなく、実際のカリキュラムを見ることが大切なのだそうです。
DP――卒業するとき、どんな力を身につけるのか
3つ目が、DP――ディプロマ・ポリシーです。
日本語では、「卒業認定・学位授与の方針」。
簡単に言えば、「この大学を卒業する頃には、こんな力を身につけてほしい」という目標です。

例えば、
専門的な知識。
課題を発見して解決する力。
他者と協働する力。
社会に貢献する力。
研究する力。
などが示されています。
AP・CP・DPをつなげて考えると、
AP どんな学生に来てほしいか
↓
CP その学生をどう育てるか
↓
DP 卒業時にどんな力を身につけるか
という流れになります。
文部科学省も、この3つを互いに関連させ、一貫性のあるものとして考えることを重視しています
大学を選ぶ側から見れば、「入学前から卒業まで、その大学がどんな学生を育てようとしているか」を見ることができるわけです。
ST比という大学の見方もある
もう一つ、講義で初めて意識したのが、ST比です。
Student Teacher Ratio。
つまり、教員1人に対して学生が何人いるかという考え方です。

一般的には、この数字が小さいほど教員一人あたりの学生数が少ないことになります。小中学校で言えば、特別支援学級は通常級に比べ、ST比が小さい、ということです。
講師によると、国公立大学、特に国立大学では比較的ST比が小さく、3・4年次に研究室やゼミへ入ったときに、教員から密度の高い指導を受けやすい傾向があるとのことでした。
もちろん、ST比が低い=必ず教育の質が高いというわけではありません。
大人数の講義にも良さがありますし、学部や研究分野によって適切な人数も違います。
ただ、ST比はその大学でどんな学び方をするのかを想像する材料になります。
大学のホームページでどこを見ればいい?

では、実際に大学を調べるとき、何を見ればよいのでしょうか。
偏差値だけでなく、
- 3つのポリシー
- カリキュラム
- 授業科目
- 教員紹介
- 研究室・ゼミ
- 取得できる資格
- 留学や実習制度
- 卒業後の進路
- 学生数と教員数
などを見ると、大学の姿がかなり見えてきます。
特に私は、教員紹介も大切だと思いました。同じ歴史学でも世界史なのか日本史なのか、文化史なのか歴史地理学なのかによって学び方の切り口は変わります。
教授の専門に注目してみると、その大学の意外な特徴が見えてきます。
オープンキャンパスも「雰囲気を見るだけ」にしない
大学選びではオープンキャンパスも大切です。
キャンパスを歩き、「きれいだな」とか「楽しそうだな」と感じることも、もちろん意味があります。

でも、それだけではもったいないと思います。
大学の先生や学生から直接話を聞けば、ホームページだけでは分からないことも見えてきます。
オープンキャンパスを「大学を見る」場所から、「自分がそこで学ぶ姿を想像する」場所にする。
これも大学選びでは大切なのではないでしょうか。
大人が「偏差値」で子どもの進路を決めない
今回の話を聞いて、教員として特に気を付けたいと思ったことがあります。
それは、偏差値から進路を逆算しないことです。
例えば、「偏差値55だからこの辺りの大学」と考えるのは分かりやすいです。
でも本来は、「何を学びたい?」「どんな授業が好き?」「将来どんなことをしてみたい?」というところから始めるべきではないでしょうか。
そのうえで候補となる大学を調べ、「今の学力との差はどれくらいある?」と偏差値を見る。
つまり、偏差値から大学を探すのではなく、大学を探したあとに偏差値を見る。
私はこの当たり前の順番が、実は最も大切だと思いました。

進路指導で教師ができること
小学校や中学校の教員が、全国の大学について詳しくなる必要はありません。
高校の先生であっても、すべての大学を把握することは難しいでしょう。
でも子どもや卒業生から、「この大学どう思う?」と聞かれたときに、「偏差値はいくつ?」だけで終わるのではなく、「そこで何を勉強したいの?」と聞く。
そして、「じゃあカリキュラムを見てみたら?」と言える。
それだけでも、進路指導はかなり変わると思います。
進路指導とは、子どもに「正しい大学」を教えることではありません。
その子自身が、「ここで学びたい」と思える場所を見つけるために、一緒に情報を整理すること。
そのために私たち教員も、偏差値のもう一歩先まで大学を見る目を持っておきたいと思います。

次回は、「模試E判定で『無理』と言ってはいけない――進路指導で模試をどう見るか」について考えてみたいと思います。
※本記事は、大手予備校が主催する大学入試に関する講義で学んだ内容をもとに、教員の立場から整理したものです。3つのポリシーについては文部科学省の公表資料も確認しています。各大学の方針やカリキュラムは変更される場合があるため、実際の進路選択では各大学・学部の最新情報をご確認ください。



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