【40代教員の退職カウントダウン174:退職まで残り2年10か月】
はじめに
学級の中には、
- すぐに怒る
- 暴言を吐く
- 嘘をつく
- 注意されると極端に反発する
- 逆にまったく感情を見せない
そんな「対応の難しい子」がいます。
近年では、こうした子どもの背景に発達障害の特性があることは広く知られるようになってきました。

しかし一方で、「愛着(アタッチメント)」の問題については、まだ学校現場で十分共有されているとは言い難いように感じます。
もちろん、教師が子どもを診断することはできません。
また、問題行動の背景は一つではなく、発達特性や家庭環境、本人の気質やトラウマ、愛着形成など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
それでも、「この子の行動の背景には、不安や人への不信感があるのかもしれない」という視点を持つことで、子どもに対する見方は大きく変わることがあります。
今回は心理学の「アタッチメント理論」をもとに、
- 愛着とは何か
- 不安型・回避型とは何か
- なぜ問題行動につながるのか
- 教師はどう関わればよいのか
を、教育現場の視点から考えてみたいと思います。
私は40代、小学校教員・教務主任(担任兼務)です。2028年3月に正規教員を退職すると決めています。詳しくはこの記事をどうぞ→【私が退職しようと決意した具体的経緯】


アタッチメント理論とは何か
「人は安心できる存在を必要とする」
アタッチメント理論(愛着理論)は、イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィによって提唱された心理学理論です。
ボウルビィは、「子どもは不安や恐怖を感じた時、特定の大人との心理的なつながりを求める」と考えました。
そして、幼い頃から「抱っこされる」「慰めてもらう」「安心させてもらう」という経験を積み重ねることで、「困った時には誰かが助けてくれる」という感覚を育てていきます。

これがアタッチメント(愛着)です。
「安全基地」という考え方
アタッチメント理論の中で重要なのが、「安全基地(セーフベース)」という考え方です。
子どもは、「ここに戻れば安心できる」という存在がいるからこそ、外の世界へ挑戦できます。
例えば、小さな子どもが公園で遊ぶ時も、親の姿を確認しながら行動することがあります。

これは、安心できる存在があることで冒険できるというアタッチメント理論の典型的な例です。
愛着理論に関しては、以前のこちらの記事でも詳しく整理しました。
【「問題行動の裏にあるもの」をどう見るか 教員にこそ読んでほしい『死に至る病』】

研究で明らかになった「愛着」の違い
アタッチメント理論をさらに発展させたのが、心理学者メアリー・エインズワースです。
彼女は有名な「ストレンジ・シチュエーション法」という研究を行いました。
これは、①親と子を一緒に部屋に入れる→②一時的に親が部屋を出る→③その後戻ってくる
という場面で、子どもの反応を観察する研究です。
その結果、子どもには愛着のパターンがあることが分かってきました。
安定型アタッチメント
もっとも安定しているのが、安定型アタッチメントです。
このタイプの子どもは、
- 不安な時は助けを求められる
- 安心すると落ち着く
- 他人をある程度信頼できる
という特徴があります。
つまり、「人を頼っても大丈夫」という感覚を持っている状態です。
およそ半分の人が安定型アタッチメントを持っているといわれています。

ただ、逆を言うと大人も含めて半分近い人が、安定型以外のアタッチメントを持っているということです。

不安型アタッチメントとは
一方で、不安型アタッチメントの子どもは、
- 「見捨てられるかもしれない」
- 「嫌われるかもしれない」
という不安を強く抱えていることがあります。
そのため、
- 過剰に注目を求める
- 感情が爆発しやすい
- 試し行動をする
- 急に怒る
- 教師を独占したがる
といった行動につながることがあります。

教師からすると、「なぜこんなことで怒るのか」と感じることもあります。
しかし背景には、「本当に受け止めてもらえるのか」という強い不安がある場合があります。
ちなみに私も不安型アタッチメントを持っています。若い頃から恋愛がうまくいかなかった時の原因は、今振り返ると不安型アタッチメントにあったと思います。先生の恋愛の実話を集めた「HOW TO 教員の恋愛シリーズ」に私の過去の恋愛もまとめました。
【教師の恋は、どこで生まれるのか─11の物語で読み解く“教員の恋愛のリアル”】

回避型アタッチメントは見逃されやすい
学校現場で特に見逃されやすいのが、回避型アタッチメントです。

このタイプの子どもは、
- 甘えない
- 助けを求めない
- 平気そうに振る舞う
- 感情を出さない
という特徴があります。
一見すると、「手のかからない子」に見えるかもしれません。
しかし実際には、「人に頼っても意味がない」という感覚を抱えていることがあります。
そのため、困っていても相談できなかったり傷ついても平気なふりをしたりすることがあります。

以前、私は回避型のアタッチメントを持った先生と学年を組んだことがあります。その時のことも以前の記事でまとめました。
【突然連絡が途絶えた後輩女性教員——愛着アタッチメント回避型という視点から読み解く恋】

問題行動の背景に「不安」があることもある

もちろん、すべての問題行動が愛着だけで説明できるわけではありません。
しかし、子どもの暴言や攻撃性、嘘や反抗、無関心などの背景に、「不安」が隠れていることは少なくありません。
そして教師がその視点を持てるようになると、「困った子」ではなく、「困っている子」として見られるようになることがあります。

教師が疲弊しやすい理由
愛着に課題を抱える子どもは、試し行動や感情の爆発、大人への不信感を見せることがあります。
すると教師側も、「わざと困らせている」「自分が否定されている」と感じ、疲弊してしまうことがあります。

しかし、「この子は人を信頼する経験が不足しているのかもしれない」という理解があるだけで、教師自身の感情が少し整理されることがあります。
教師は「安全基地」になれる
ここで重要なのが、教師自身が安全基地になるという視点です。
もちろん教師は親にはなれません。
しかし問題行動の背景に「不安」があることもあるにはなれます。

例えば、
- 急に突き放さない
- 感情で対応を変えない
- 小さな成功を認める
- 「あなたを見ているよ」と伝える
こうした関わりは、子どもにとって「この人は急に自分を見捨てない」という安心感につながることがあります。
そしてその安心感が子どもの問題行動を減らしてくれるのです。

学校現場に必要なのは「理解の視点」
学校ではつい、問題児童生徒に対して指導法や対応法、テクニックを求めたくなります。
もちろんそれも大切です。
しかし、その前に必要なのは、「この子の背景に何があるのかを想像すること」ではないでしょうか。

問題行動の背景を理解できるようになると、教師の関わり方も少し変わってきます。
そしてそれは、結果的に子どもの安心感につながることもあります。
おわりに
学校には、さまざまな背景を抱えた子どもたちがいます。
その中には、発達特性、家庭環境、愛着形成の難しさなどによって、不安を抱えながら学校生活を送っている子もいます。
だからこそ教師には、「問題行動だけを見る」のではなく、「その背景にある不安を見る視点」が求められているのかもしれません。
教師は万能ではありません。すべてを解決することもできません。
それでも、
- 安定して接する
- 毎日声をかける
- 急に見捨てない
そんな小さな積み重ねが、子どもにとっての「安全基地」になることがあります。
そしてそれは、きっと学級の空気そのものを少しずつ変えていくのだと思います。



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