インフレと円安から考える教員の未来【第2部】

教師のお仕事

【40代教員の退職カウントダウン191:退職まで残り2年8か月】

はじめに 

人材不足と処遇改善の限界——教員は魅力ある仕事であり続けられるのか

インフレと円安から教員の未来を考えるシリーズ第2部です。

前編では、インフレ、円安、金利上昇という経済環境の変化が、教員の家計にどのような影響を与えるのかを考えてみました。
インフレと円安から考える教員の未来【第1部

インフレ、円安、金利上昇という経済環境の変化が、教員の家計にどのような影響を与えるのか

安定していて良いと言われた教員の仕事ですが、今のインフレ時代には「安定」自体は今後も価値を持ちつつも、相対的な豊かさを感じにくくなる可能性があるのではないかと考えました。

第2部では、さらに一歩進めて、これからの人材という観点で考えます。

インフレと民間賃上げの時代に、教員という仕事は、若い人材が集まる魅力ある仕事であり続けられるのでしょうか。

正直私は、かなり厳しい見方をしています。

結論から言えば、今の制度設計のままでは、教員は相対的に魅力の少ない仕事になっていく可能性が高、若者から選ばれる仕事ではなくなっていくと思っています。

教員は相対的に魅力の少ない仕事になっていく可能性が高く、若者から選ばれる仕事ではなくなっていく

もちろん、教員の仕事の社会的意義は非常に高いです。
子どもの成長に関わる仕事であり、地域や社会を支える大切な仕事です。
この価値は、今後も変わりません。

しかし、社会的意義が高いことと、職業として魅力的であることは、必ずしも同じではありません

この記事では、このあたりの価値観を深掘りしてみたいと思います。

私は40代、小学校教員・教務主任(担任兼務)です。2028年3月に正規教員を退職すると決めています。詳しくはこの記事をどうぞ→【私が退職しようと決意した具体的経緯

教員は「安定した人気職」から「強い動機が必要な専門職」へ変わりつつある

かつて教員は、安定した人気職の一つでした。

公務員としての安定。
地域社会からの信頼。
夏休みなど長期休業のイメージ。
子どもと関わるやりがい。
住宅ローンを組みやすい信用力。

こうした要素が合わさって、「堅実な職業」として見られていました。昔は「教員になった」というと親戚から褒められたものです。

しかし、今後は少しずつ位置づけが変わっていくと思います。

教員は、誰にとっても魅力的な安定職ではなく、教育に強い意味を感じる人が選ぶ専門職になっていくのではないでしょうか。

教育に強い意味を感じる人が選ぶ専門職

これは悪いことではなく、本当に子どもと関わりたい人、教育に価値を感じる人、学校という場に可能性を感じる人が教員になること自体は、むしろ望ましいことです。

ただし問題は、待遇や働き方がその専門性に見合っているかどうかです。

求められる能力は高い。
責任も重い。
保護者対応も難しい。
特別支援や不登校対応も増えている。
ICTや新しい学力観への対応も求められる。

それにもかかわらず、給与や裁量、働き方の自由度が十分に改善されなければ、若い人にとって教員は「割に合わない仕事」に見えてしまいます

学校の働き方改革がなかなか進まない理由① ― 現場の努力では解決できない「構造問題」 ―

民間賃上げが進むほど、教員の相対的な魅力は下がりやすい

インフレ時代には、民間企業も人材確保のために賃上げを進めます。実際、新卒初任給30万円が話題になりました。

ここで考えなければならないのは、教員に向いている若手人材は、実は民間企業でも評価されやすいということです。

子どもに分かりやすく説明できる人。
保護者と丁寧に話せる人。
学級をまとめる力がある人。
教材を作る力がある人。
ICTを使いこなせる人。
トラブル対応ができる人。
チームで仕事ができる人。

こうした能力は、教育現場だけでなく、民間企業でも十分に価値があります。

教員に向いている人材は、実は民間企業でも評価されやすい

民間の賃金が上がり、転職市場が広がり、働き方の選択肢が増えると、力のある若い人は当然比較します。

民間企業なら、初任給が高い。
成果が出れば昇給しやすい。
転職で収入を上げる道もある。
リモートワークやフレックスなど、働き方の自由度もある。
副業もしやすい。

一方で教員は、安定はあるものの、給与は制度的に決まり、急激に上がりにくい。
成果を上げても、収入に大きく反映されるわけではない。
副業にも制約がある。
休みにくく、担任を持てば責任も重い。

こう比べると、若い優秀層ほど、教員を選ぶ理由が弱くなっていくと思いませんか。

「子どもが好き」「教育に関わりたい」という気持ちだけで、長時間労働や重い責任を引き受け続けるのは簡単ではありません

若い優秀層ほど、教員を選ぶ理由が弱くなっていく

採用倍率の低下は、教員の魅力低下を示すサインである

近年、教員採用試験の倍率低下が大きな話題になっています。

もちろん、採用倍率が下がったからといって、すぐに「人材の質が下がった」と言うのは乱暴です。

ただ、それでも採用倍率の低下は軽視できないでしょう。

倍率が下がるということは、教員になりたい人、教員になってもよいと考える人が、以前ほど集まっていないということです。

特に深刻なのは、単に倍率が下がっていることではありません。

問題は、教員になりたい若い人が減り、現場を支える講師層も不足し、採用後に早期退職する人も出ているという複合的な流れです。

教員になりたい若い人が減り、現場を支える講師層も不足し、採用後に早期退職する人も出ている

採用時点で人が集まらない。→欠員が出ても講師が見つからない。→若手が入っても、数年で疲弊する。→中堅が校務や生徒指導を抱え込む。→管理職も余裕を失う。

この循環が続くと、学校現場の魅力はさらに下がります

この循環が続くと、学校現場の魅力はさらに下がります

この悪循環を止めることが、これからの教育政策の大きな課題であると行政が認識できているでしょうか。

教師不足は、数字以上に現場を苦しくする

教師不足の数字だけを見ると、「不足率はそれほど高くない」と感じる人もいるかもしれません。

しかし、学校現場では、1人の不足が非常に大きな影響を与えます。

学校現場では、1人の不足が非常に大きな影響を与えます。

担任が足りない。
教科担任が足りない。
特別支援学級の担当が足りない。
病休代替が見つからない。
産休育休代替が見つからない。
非常勤講師が見つからない。

こうなると、学校は何とかして穴を埋めます。

教務主任が授業に入る。
管理職が授業を持つ。
学年内で時間割を組み替える。
少人数指導をやめる。
特別支援や不登校対応の余力が減る。
空き時間がなくなり、教材研究や保護者対応の時間が削られる。

管理職が授業を持つ。

教師不足の問題は単に「人が足りない」というだけではありません。

学校全体の余白を奪います。そして、余白がなくなった学校では、子どもへの支援も、教員同士の相談も、若手を育てる時間も減っていきます。

これはかなり深刻です。

私自身、令和7年も令和8年も教務主任をしながら担任を務めています。

もう少し余裕さえあれば、もっと若手のフォローもできるのに、と歯痒く思うこと多いです。

なぜ教務主任をしながら担任を?教員不足の現場から見えた実態(R7年度)
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見落とされがちな「管理職の長時間労働」

私自身、令和7年も令和8年も教務主任をしながら担任を務めています

処遇改善は進む。しかし、抜本改革とは言いにくい

もちろん、国も自治体も何もしていないわけではありません。

教員の処遇改善は、すでに政策として動いています。

教職調整額は、これまでの4%から段階的に10%へ引き上げられる方向です。
主務教諭という新たな職も設けられます。
担任や主任級への処遇改善も議論されています。

これは明らかに前進です。

ただし、私はこの処遇改善だけで、若い人材が一気に戻ってくるとは思っていません

理由は、改善幅が現場の負担に対して十分とは言いにくいからです。

教員が「定額働かせ放題」と言われるのはなぜ?給特法の歴史・現場の現実・そしてこれから
実はあまり増えていない?担任手当の実情― 教員の給与はどう変わったのか ―

「何も変わらない」よりは大きく前進しているが、「抜本的に報われる制度」にはまだ遠い

つまり、今進んでいる処遇改善は、「何も変わらない」よりは大きく前進しているが、「抜本的に報われる制度」にはまだ遠いというのが正直なところです。

常勤講師・非常勤講師の処遇改善はさらに難しい

教員不足を考えるとき、正規教員だけを見ていては不十分です。

学校現場は、常勤講師や非常勤講師によって支えられています。

しかし、常勤講師や非常勤講師の処遇は、正規教員に比べて不安定になりがちです。

常勤講師は、正規教員と同じように担任や校務、生徒指導を担うこともあります。
それにもかかわらず、任期付きであり、自治体によって待遇や経験換算に差があります。

公立小中学校の非常勤講師:勤務形態・待遇の実態と現実的な選択肢としての可能性

非常勤講師は、授業時間に応じた報酬が中心です。
しかし、授業1時間の裏側には、準備や評価など見えない仕事があります。

この部分が十分に報酬化されなければ、非常勤講師という働き方は、なかなか魅力的にはなりません。

授業1時間の裏側には、準備や評価など見えない仕事があります。

学校は、担任一人で回す場所ではありません。チームで子どもを支える場所です。

しかし、そのチームを支える人たちの待遇が不十分なままでは、学校現場の持続可能性は高まりません。

教育委員会や地域社会の理解は進むが、時間がかかる

明るい材料もあります。

近年、教育委員会や地域社会の中にも、「学校に何でも求めすぎてきたのではないか」という意識は少しずつ広がってきています。

電話対応時間を制限したり、弁護士や専門家につなぐ。
部活動を地域に移行したり、支援スタッフを配置する。

それでもやっぱり部活動は廃止すべき理由 ― BDK(部活大好き教員)が語る本音

それでもやっぱり部活動は廃止すべき理由 ― BDK(部活大好き教員)が語る本音

こうした取り組みは、今後さらに広がっていくと思います。

これは非常に大切な流れです。

ただし、地域社会の意識はすぐには変わりません。

「学校がやってくれて当たり前」
「担任が全部把握していて当然」
「何かあればまず学校に言えばよい」

こうした感覚は、長い時間をかけて作られてきたものですし、それを変えるにはやはり時間がかかります。
教育委員会が方針を出しても、管理職が本気で業務を削らなければ、学校は変わりません。
管理職が頑張っても、保護者や地域の理解がなければ、現場の負担は減りません。

だからこそ、教員の魅力回復は簡単ではありません。

教員の魅力回復は簡単ではありません

教員の未来は「少し改善するが、自然には魅力回復しない」

今後、教員の働き方や処遇は改善されていくとは思います。

しかし、それで教員が再び「若い人材が自然に集まる人気職」に戻るかというと、私はかなり疑問です。

学校現場が少し改善しても、その間に社会の要求もさらに増えていく可能性があります。

また、賃上げによって教員という仕事の魅力が相対的に下がっていくことも予想されます。

結果として、昔よりは良くなった。けれど、他の仕事と比べるとまだ割に合わないという状態が続くかのでは無いでしょうか。

そうすると優秀な人材ほど現場に入らず、私たちの仕事はさらに厳しいものになるのではないか。

これが、私の今の見立てです。

優秀な人材ほど現場に入らず、私たちの仕事はさらに厳しいものになる

それでも、教員の仕事には価値がある

私は教員という仕事そのものに価値がないとはまったく思っていません。

むしろ、社会が不安定になるほど、教育の価値は高まると思っています。

格差が広がる時代だからこそ、学校の役割は大きい。
家庭環境が多様化する時代だからこそ、子どもを支える大人が必要です。
情報があふれる時代だからこそ、学び方を教える人が必要です。
AIが進化する時代だからこそ、人間同士の関わりや対話が重要になります。

教員の仕事は、これからももちろん必要です。

だからこそ、今のままではいけないと思うのです。

だからこそ、今のままではいけないと思う

まとめ

教員は魅力を失うのか。それとも再設計できるのか

インフレと円安、金利上昇、民間賃上げの時代に、教員という仕事は大きな転換点に立っています。

第1部で見たように、教員は不況には強いが、インフレ時代には、給与の伸びが物価や民間賃金に追いつきにくく、相対的な豊かさを感じにくくなる可能性があります。

そして今回で見たように、その影響は家計だけにとどまりません。若い人材が教員を選ぶかどうかにも関わってきます。

教員の仕事は、社会的意義が高い。しかし、負担も重い。
求められる能力も増えている。
人手不足も深刻になっている。
処遇改善は進むが、抜本改革にはまだ遠い。

このままでは、教員は相対的に魅力の少ない仕事になっていく可能性があります。

教員という仕事を守るには、精神論では足りません。

「先生なんだから頑張って」では、もう続きません。

必要なのは、教員という仕事の価値に見合った処遇と、持続可能な働き方の再設計だと思います。

具体的に教員に必要なのは、安定、処遇、働き方、専門性、社会的評価がきちんと釣り合うことでは無いでしょうか。

教員という仕事には、今でも大きな価値があります。だからこそ、その価値にふさわしい制度へ変えていく必要があります。

教員の未来は暗いと決めつける必要はありません。しかし、楽観もできません。

インフレと円安の時代に、教員という仕事をどう再設計するのか。
それは、現場の教員だけでなく、国、自治体、教育委員会、保護者、地域社会全体で考えるべき課題なのだと思います。

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