教育基本法の改正って何だったの?──若手の先生にわかりやすく解説

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はじめに

私は40代小学校教務主任(担任兼務)、2028年度末に正規教員を退職予定です。
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私が若手だった2006年、戦後から60年近く変わらなかった「教育の土台」が大きく変わりました。それが、教育基本法の改正です。

教育基本法は、学校教育法などの“もと”になる一番大切な法律で、教育の「考え方の基準」となるもの。

つまり、日本の教育の方向を決めるコンパスのような存在です。

この改正は、安倍政権が「教育再生」を掲げていた時期に行われました。

この改正は、安倍政権が「教育再生」を掲げていた時期に行われました。

「なぜ変えたの?」「何が変わったの?」「それでどうなったの?」

今回は、教員の教養シリーズとして、当時まだ子どもだった若手の先生に向けて教育基本法改正を整理してみたいと思います。


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教育基本法ってどんな法律?

教育基本法は、1947年(戦後すぐ)に作られました。

教育基本法は、1947年(戦後すぐ)に作られました。

平和で民主的な社会をつくるために、自由で個性を大切にする教育をしよう」という考えが中心でした。

戦争の反省をもとに、「国家のため」よりも「個人の尊重」を大切にした法律でした。

でも、時代が進むにつれて「いじめ」「学力低下」「モラルの低下」といった問題が増えてきました。そこで、「もう一度教育の原点を見直そう」という動きが出てきたのです。


なぜ改正されたの?

2000年代になると、社会全体で「子どもたちの心が荒れている」と言われるようになりました。

いじめや不登校の増加

学級崩壊

家庭教育の弱まり

そうした中で、政治の中から「教育の理想をはっきりさせる必要がある」という声が上がりました。

子どもたちに“公共の精神”や“命の大切さ”をもっと教えるべきだ

伝統や文化を尊重する教育が必要だ

こうした考え方をもとに、2006年に教育基本法が改正されました。

政治の中から「教育の理想をはっきりさせる必要がある」という声が上がりました。

改正で何が変わったの?

一言で言えば、何を大切に育てるか”が、より具体的に書かれたという点です。

主なポイントをわかりやすくまとめると──

教育基本法改正(2006年)の主なポイント
主な改正点 内容(やさしく言うと)
教育の目標を具体化 「公共の精神」「命を大切に」「伝統と文化」「国を愛する態度」など、育てたい姿をよりはっきり書いた。
家庭・地域の役割を明記 家庭教育の大切さや、地域と学校が力を合わせることを法律にしっかり書き込んだ。
教育振興基本計画の導入 国が中長期の教育計画(目標や取組)を立て、計画的に進める仕組みをつくった。
生涯学習の推進 子どもだけでなく大人も学び続ける「生涯学習社会」をめざす考えを強めた。

こうして、「社会全体で教育を支える」「道徳や公共心を育てる」といった方向が強く打ち出されました。

国会で改正される教育基本法

改正のねらい

改正の目的を、政府の説明と教育現場の視点でそれぞれ整理すると──

政府のねらい:

  • 教育の方向性を明確にしたい
  • 社会や家庭と学校の連携を進めたい
  • 子どもの心の教育を重視したい

現場で感じた変化:

  • 「学力だけでなく、心の成長も大切に」という流れが強まった
  • 授業やカリキュラムの中で「道徳・公民・総合的な学習」がより重視されるようになった

特に私は社会科の教師なので、中学3年生の公民の授業の重要性が増したことを強く感じました


賛成の意見

改正には、当然ながら賛否両論がありました。

まずは、賛成の立場の意見から。

  • 「教育の目標が明確になった」
  • 「家庭や地域と学校が協力しやすくなった」
  • 「子どもたちの心を育てる教育が進むきっかけになった」

「公共の精神」や「伝統文化」といった言葉が入ったことで、授業でも「社会と自分の関わり」について考える場面が増えた、という声もあります。

「社会と自分の関わり」について考える場面が増えた

反対の意見・懸念

一方で、慎重な立場からの声も少なくありませんでした。

  • 「政治が教育内容に口を出しやすくなるのでは?」
  • 「“国を愛する態度”という表現が、人によって解釈が違う」
  • 「多様性や個人の自由を狭めるおそれがある」

つまり、「価値観を教えること」は大切だけれど、一つの考えを押し付ける教育にはなってはいけない、ということです。

慎重な立場からの声も少なくありませんでした

現場ではどう変わった?

この改正をきっかけに、学校ではいくつかの変化がありました。

  • 道徳の時間が見直され、結果2018年には正式な教科に。
  • 総合的な学習の時間で「地域・伝統文化」に関する活動が増えた。
  • 学校評価や研修など、教育の「計画と振り返り」が重視されるようになった。

つまり、「心」「地域」「計画性」──この3つのキーワードが、教育の中にしっかりと根付かせようという流れになっていったのです。


若い先生へのメッセージ

教育基本法の改正は、言葉だけ聞くと難しく感じますが、実は今の授業の形の基礎になっている出来事です。

  • 「対話を重ねながら考える授業」
  • 「子どもの心の成長を大切にする指導」
  • 「家庭や地域と連携した学校運営」

こうした取り組みの多くが、この法律の改正をきっかけに生まれています。

だからこそ、今の私たちが「どう子どもと向き合うか」を考えるとき、教育基本法の精神を考えることはとても意味があります。


おわりに

教育基本法の改正は、「戦後教育の理想」と「新しい時代の課題」をつなぐ大きなターニングポイントでした。

法律が変わっても、教育の本質は変わりません。

それは、子どもが自分の力で考え、成長していくのを支えることです。

制度や言葉にとらわれすぎず、「子どもの目の前の一歩」を大切にする――

私も教師でいる間は、そんな先生でありたいです。

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