【40代教員の退職カウントダウン107:退職まで残り3年4ヶ月】
■ はじめに
教室の片隅には、誰にも語られない恋が生まれては消えていきます。
この連載「HOW TO 教員の恋愛シリーズ」は、私が20年以上にわたる教員経験で見聞きした、そんな現場に潜む恋模様を描く企画です。
第4弾は、コロナ禍の真っ只中に再び動き出した“中年の遠距離恋愛”。
昨年、大学時代の大先輩(当時52歳)が、昔の仲間同士の飲み会でそっと語ってくれた物語です。
私は40代の小学校教務主任(担任兼務)で、2028年度末に正規教員を退職予定です。
※詳しくはこちら → 【私が退職しようと決意した具体的経緯】
■ 登場人物
● 小崎先生(52歳/仮名)

私の大学のサークルの大先輩で、若い頃は長髪のイケメン教師。フォークギターを抱えて自己紹介するような、型破りで人気のある先生でした。学級も演劇教育という独特の教育理論のもとに経営、話題性も抜群です。
教師をしながらバンドや演劇活動も続け、多趣味で情熱的。後輩の面倒見もよい一方、若い頃は少し女性関係がだらしない面もありました。
● 岡本先生(40代前半/仮名)

小崎先生と同じ大学出身。中部地方で10年ほど講師として働いた後、採用氷河期も影響して正規採用に至らず、地元の岡山県に戻って教員を続けていました。
私自身は一度も面識はありませんが、写真で見せてもらったところ、丸顔で、人を安心させる柔らかな笑顔が印象的です。
■ 20年前の出会い
二人が最初に出会ったのは、岡本先生が大学を卒業したばかりの頃。田舎の小さな学校に赴任した彼女の前に、小崎先生(当時30代半ば)がいました。
小崎先生は長髪、演劇教育重視という独自の教育の理論で表現活動を大切にする個性派の担任。
管理職の先生とぶつかりながら自分の主張を通していく姿に頼もしさを感じたのでしょうか、それとも教員らしくない小崎先生に不思議な魅力を感じたのでしょうか、二人は夏休みには付き合い始めます。
ただ、小崎先生は当時とてもモテました。
別の女性との遊びを巡って喧嘩も絶えず、若い恋は1年足らずで終わります。
岡本先生は翌年別の学校へ。いつしか二人は年賀状を交わす程度の関係へと戻っていきました。

■ それぞれの歩んだ20年
岡本先生はその後も講師として奮闘します。しかし就職氷河期の正規採用の壁は厚く、地元岡山へ帰郷。一般企業に就職しました。
一方、小崎先生は相変わらず結婚とは無縁。
“好きなことをやりたい”という生き方を続け、演劇や音楽といった表現活動を軸に教師としての人生を充実させていました。
しかし、50歳を過ぎた頃から変化が訪れます。
- 管理職が自分と同年代となり、反発のしがいもなくなる
- 表現活動を支える仲間が結婚で離れていく
- 自分の主張を押し通す気力が少しずつ欠けていく
小崎先生を支えていたはずの“生きがい”が、いつの間にか薄れていったのです。まさにミッドライフクライシス、『中年危機』が小崎先生を襲います。

そんな中で唯一の楽しみが、子どもたちとつくる表現活動でした。合唱、劇、発表会――それが、中年教師・小崎先生の核でした。
■ コロナ禍が奪ったもの
そんな中で訪れた、あのコロナ禍。
- 3ヶ月の休校
- 話し合いの禁止
- 音楽授業の自粛
- 人との距離すら制限される日々

小崎先生の人生で唯一残された「自分を表現する場所」が、突然すべて奪われました。
当時会ったとき、私は目の前の先輩を心配しました。若い頃の情熱は影を潜め、言葉にも勢いがない。鬱を疑うような症状が見え隠れし、見るからに“心の火”が消えかけているようでした。
■ その時、1通のメールが届く
そんな人生のどん底に落ちたタイミングで、パソコンに届いた1通のメール。
差出人は――岡本先生。
「元気ですか?」
十数年ぶりの連絡でした。
表現活動を心の支えにしていただろう小崎先生に、コロナ禍が与えるダメージを案じ、年賀状のメールアドレスを頼りに送った一通だったのです。
人生で最も弱っていた瞬間に届く、昔の恋人からの優しい言葉。小崎先生がその温かさに救われたのは、ある意味当然でした。
■ リモートが繋いだ“再会”
二人はすぐに連絡を取り合い、LINEを交換します。コロナで自由に県境を越えられない時期――
代わりにLINEのビデオ通話が二人を結びました。
- 近況
- 心境
- 教育のこと
- 共通の知人の話
- 二人が若かった頃の夏の記憶
毎晩のように話すうちに、小崎先生は少しずつ元気を取り戻します。
岡本先生は、昔の仲間にも声をかけ、当時流行していたオンライン飲み会で小崎先生を励ましました。スクリーン越しでも、20年前と変わらない“安心できる相手”だったのでしょう。


■ そして再会へ
移動制限が解けると、小崎先生は岡山へ向かいます。
そこにいたのは、20年の時間を重ねた中年のふたり。しかし、小崎先生も岡本先生も、若いときとは違いました。
- だらしなく女性に振り回されがちだった30代の小崎先生ではなく
- 相手の行動に不安を抱えていた20代の岡本先生でもなく
人生経験を積み、落ち着きと大人の成熟をまとった「今の二人」でした。


■ そして2024年、二人は結婚した
2024年、小崎先生56歳。岡本先生は40代半ば。
二人は入籍をしました。
式も挙げず、仲の良い友人だけで食事会を開くだけの、ささやかな門出。派手さはない。
でも、それが二人らしい“静かな幸せ”だと後に小崎先生は語ります。
現在は、
- 小崎先生は教員を退職し、貧困家庭の子どもを支援するNPO法人で勤務
- 岡本先生は非常勤講師として働きながら共に暮らし
- 二人は子どもは望まず、DINKsを選択
- その代わり、ゴールデンレトリーバーを迎えて家族に
そしてこの犬の世話を、うちの妻(ペットシッター)が依頼されるという不思議な縁も続いています。私に妻についてはこちらの記事から→【HOW TO 教員の転職〜妻の場合〜】
「会っていなかった20年を、今ゆっくり取り返してるみたいに穏やか」と妻はいいます。
二人は、そんな穏やかで温かい生活を送っているそうです。
私自身も、近いうちに岡本先生にお会いしたいと思っています。

■ おわりに
若い頃は上手くいかなかった恋が、人生のどん底とコロナ禍を越えて、中年になって静かに再び動き出す。若い頃の恋は、うまくいかないこともある。でも、こうして人生を支えてくれることがある。これもまた、教員の恋愛のひとつの形なのだと思いました。
さて、次回は恋愛を少し科学的に考えてみたいと思います。愛着理論という言葉を知っていますか。愛着障害という言葉の方が先生方には馴染みがあるかもしれません。よくある占い的なものではなく、人の持つ愛着の形成は大きく分けると4つに分類される。恋愛がいつも苦しく、辛い人というのは愛着パターンが「不安型」や「回避型」に分類されるようです。
次回はこの愛着理論に基づいて、ある女性の恋愛を考えてみたいと思います。
【HOW TO 教員の恋愛シリーズ⑤ 突然、目の前から消えた彼女 ― 愛着アタッチメントから読み解く苦しい恋】です。お楽しみに



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