【40代教員の退職カウントダウン146:退職まで残り3年】
はじめに|叱っても変わらない子どもに出会ったとき
教室に立っていると、こう感じることはないでしょうか。
- なぜ、この子は何度も同じことを繰り返すのか
- なぜ、注意すると逆に荒れるのか
- なぜ、成功しても自己肯定感が上がらないのか

発達特性、家庭環境、思春期の揺れ……もちろん理由は一つではありません。
そんな中で、私自身が新たな視点を得たのが愛着障害に着目した1冊の本『死に至る病』でした。
本書は刺激的なタイトルですが、内容は非常に臨床的で、「愛着」という観点から現代の生きづらさを読み解いています。
今回は私自身が出会ってよかった本を紹介する「教員にこそ読んでほしいシリーズ」として岡田尊司さんの著書『死に至る病』を紹介します。
私は40代、小学校教員・教務主任(担任兼務)です。3年半後の2028年3月に正規教員を退職すると決めています。詳しくはこの記事をどうぞ→【私が退職しようと決意した具体的経緯】
本書の核心|愛着のゆがみがもたらす“生きづらさ”
岡田氏は本書の中で、
- うつ
- 拒食・過食
- 依存症
- 対人関係の不安定さ
- 自己否定の強さ
- 衝動的行動
といった現代的な問題の背景に「不安定な愛着」が関わっている可能性を指摘しています。

愛着とは、「自分は守られている」「自分はここにいていい」という感覚の土台です。
幼少期に養育者との間で安心・信頼の体験が十分に築かれないと、
- 見捨てられ不安が強くなる
- 他者を過度に求める、または極端に拒絶する
- 自己評価が極端に低くなる
- 批判に過敏になる
といった傾向が生じやすいといいます。

本書では、臨床事例を通して「問題行動の奥にある“深い愛着不安”」が描かれています。
つまり今教室にいる「問題児」とされる子どもの中に、愛着障害によって苦しんでいる子どもがいる可能性を示唆しているのです。
教室と重なる場面
読み進めながら、私は何度も教室の子どもたちの姿を思い出しました。
例えば、
- 先生を試すような挑発行動
- 叱られるとニヤニヤする反応
- 急に距離を取り、関係を断ち切ろうとする態度
- 「どうせ自分なんて」と言い続ける姿

それらを「反抗的」「やる気がない」「性格の問題」と見ることもできます。
しかし本書は、それは“安心を確かめる行動”かもしれないという可能性を示します。
この視点は、私の学級経営に確実に影響を与えました。
実際に私が経験したこと
私が4年生を担任したときのことです。
前学年から、
- 反抗的な態度をとる
- 授業に前向きでない
- 怒りの感情がコントロールできない
という申し送りを受けた男子児童がいました。
実際に担任してみても、その通りでした。注意すると強く反発し、少しのきっかけで怒りが爆発する。私は叱ることが多くなり、関係は緊張したままでした。

ちょうどその頃、岡田尊司さんの『死に至る病』を読みました。
この本を読んで私は、彼の反抗的な態度の奥に強い不安があるのではないか、と考えるようになりました。
もちろん診断ではありません。ただ、「見捨てられる不安」が行動に出ている可能性という視点を持ったのです。
転機となった一言
ある日、私はクラスの前でこう言いました。
「先生はいつも彼を怒ってばかりいるけれど、すごく大好きなんだよ。」

正直に言えば、自然に湧き上がった言葉というよりも、彼に“届く言葉”を意識して選んだ発言でした。
愛着の視点から考えれば、彼に必要なのは叱責よりも「関係は切れない」というメッセージかもしれない。そう思ったからです。
その後の変化
それを境に、彼は少しずつ変わりました。
・放課中に近くに来る
・甘えるような態度を見せる
・以前ほど強く反発しない
もちろんすぐに劇的に変わったわけではありません。しかし、怒りのコントロールは年度当初より明らかに安定しました。

2年後の卒業のとき、担任ではない私に手紙を書いてくれました。
たくさんの先生と関わりながら、彼が手紙で感謝を伝えてくれたのは私だけでした。
あのときの一言だけが理由とは思いません。
けれど、「関係は続く」というメッセージを送り続けたことが、彼の安心につながったのではないかと感じています。
学級経営への示唆
本書を読み、私が特に大切だと感じたのは次の点です。
① 安定した関係性の継続
愛着が不安定な子ほど、対応の一貫性・予測可能性・感情に左右されない関わりが重要になります。
指導の一貫性が失われたり、感情のままに指導すると、途端に不安が増し自分を守るために敵意を表してきます。
② 試し行動を「拒絶」しない
挑発の裏に、「それでも受け止めてくれるか?」という確認があると考えると、対応は変わります。
行為に対する指導はしても、存在そのものを否定しないことが大切です。
③ 行動よりも不安を見る
行動そのものより、「何が不安なのか」に目を向けることで、関係の質が変わります。
ただし、愛着理論は“万能”ではない
『死に至る病』は、とても素晴らしい知見を与えてくれる本ですが、子どもの問題行動の背景は多因子的です。当たり前ですが、全てが愛着障害に起因するわけではありません。

- ADHDやASDなどの神経発達特性
- トラウマ体験
- 貧困や家庭の構造的問題
- 教室環境や人間関係
- 思春期の発達課題
愛着理論は、それらを説明する一つのレンズです。
すべてを愛着に還元するのは危険ですし、「親のせい」と単純化することも避けるべきです。
本書も決して「母親批判」をしているわけではなく、むしろ現代社会の構造的な孤立や不安を背景として論じています。
だからこそ、愛着障害という視点を“持つ”ことと、愛着障害に“決めつける”ことは違うと私は感じています。
教員にこそ読んでほしい理由
学級経営は技術だけではありません。
- 子どもの行動をどう解釈するか
- 背景をどう想像するか
この“解釈の質”が、関わり方を決めます。
『死に至る病』は、直接的な指導法を教えてくれる本ではありません。
しかし、「子どもの不安を見る視点」を与えてくれる一冊です。
それは、日々の学級経営に確実に影響を与えます。

まとめ|一つのレンズを増やす
愛着理論は万能ではありません。
しかし、学級経営に悩む私たちにもう一つのレンズを与えてくれる。私はそう感じました。
子どもの行動を、少しだけ立体的に見るために。そのきっかけとして、ぜひ手に取ってほしい一冊です。


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